「bk1怪談大賞に投稿した作品」

20字×20字の400字詰め原稿用紙2枚分換算で改行されています


「宇宙から来た戦国大名」

 

 刑部少輔大谷吉継という人物の出自来歴は

判然としない。能く太閤秀吉に仕え、戦より

政に手腕を発揮した武将として知られている。

然し早くに病を発したと云われ、その生来の

能力を存分に振るったとは曰く言い難い。

 巷間半ば伝説めいた挿話として語られる所

では、とある茶席にて廻された濃茶の椀に、

既に死病を疑われるほどに崩れていた吉継の

顔から粘液の一滴が落ちたという。居合わせ

た者達は悉く罹患を恐れ椀の受け取りを拒ん

だが、只一人治部少輔石田三成だけが平然と

それを口にした。吉継は三成の友情に多いに

感じ入り、終生信義を違えることは無かった

と伝えられている。

 慶長五年、関ヶ原の合戦に於いて豊臣方を

指揮した三成は人望に薄く、秀吉恩顧の武将

達でも徳川方に就く者が多かったが吉継は進

んで三成に義を尽くし、最早原形を留めぬ程

に変形した異相を覆面の下に隠して陣中に参

じたと言う。かくて歴史に記された如く松尾

山より駆け下りた金吾中納言小早川秀秋以下

多くの武将の裏切により西軍は敗れ三成は敗

走した。大谷隊は少数ながら士気旺盛にして

小早川隊の猛攻を能く凌いだが衆寡敵せず遂

に退き、吉継は必ずや三年以内に金吾に仇成

さんと呪詛を吐いて自刃したと伝えられる。

終焉の地は何処とも知れず、刑部少輔大谷吉

継という人物はその最期もまた判然としない。

 

 石田三成が六条河原に斬首されたその時に、

屍溢るる関ヶ原の地で蠢動する異形の姿があっ

た。地中から滲み出た原形質状の物体はやが

て菌糸を粘つかせると名状し難い外形を成し、

伸ばした触手が覆面頭巾の残骸を引き裂いた。

嘗て大谷吉継と呼ばれたモノは冒涜的な叫び

声を上げ、星間宇宙を羽ばたく翼を広げると

何処かへと飛び去った。

 

 小早川秀秋が乱心の末に狂死を遂げたのは

ミゴとにそれより二年の後であった。 


「テレビ様」

 家が旧かったのか親が古かったのか、子供

の頃、我が家のテレビ事情はよその家とは少

し違っていた。

 やたらと年季の入ったテレビには薄布が一

枚覆い被さっていて、視聴の際にはそれを厳

かにめくり上げ、家族揃って神妙に見入る。

チャンネル権は無論父親が握り(と言うか僕

は友達の家に遊びに行ってよい年になるまで

テレビにチャンネルなんてものがあるとは知

らなかったし、変身ヒーローや巨大ロボット

なんてのは、みんなが勝手に空想してるもの

なんだろうと思ってた)、まるでテレビと言

うよりテレビ様。我が家での地位はそんな感

じでよその家とは少し違っていた。

 風邪を引いて学校を休み、家で一人寝てい

たときに、こっそり起き出してテレビを見た

ことがある。恐る恐るに薄布をめくってみる

と、テレビの中にはビール瓶みたいに茶色く

て目つきの悪い小鬼が膝を抱えて狭苦しそう

に座ってた。目が合った。

 あんまり怖かったんで悲鳴も上げずに布団

に戻り、親には秘密にしていたんだけど、後

で随分叱られたことは覚えてる。「この子は

ひとりで勝手にテレビを見て」とか「ブラウ

ン管に近づいちゃいけません」などと色々。

 その後我が家にも電子レンジやマイコンや

らが導入され、いつの間にやらテレビも買い

換えられただの家電製品のひとつになって、

テレビの中のテレビ様のことなどすっかり忘

れてしまったのだけれども、実は先日ボーナ

スを奮発して、ようやく地上波デジタル対応

ハイビジョン薄型ワイド液晶テレビってやつ

を買ってきたんだ。久し振りの大物家電に一

人ご満悦な気分で電源入れてみたら、テレビ

の中には液晶画面で薄切りになったテレビ様

が、ブラウン管より狭苦しそうに入ってた。

 

 ――成る程これが幽鬼ELというものか。

 


「犠牲フライ」

 

 近所のスーパーの惣菜コーナーがこのご時

世に価格据え置きを謳っていて、それはそれ

で有難いのだがすぐ横に「当店のフライ・天

ぷら等の揚げ物はすべて国産の小麦粉とバッ

ターを使用しています」などと貼り紙がして

あったので思わずツッコミを入れてしまう。

それを言うなら「バター」だろう。

 

 間違いと言えば確かに間違いではあるのだ

が、最近の食品産地擬装や賞味期限改ざん問

題に比べれば、店頭手書きポップの書き損じ

などは精々苦笑で済ませられる程度の事なの

で、わざわざ店員に注意することもないかと

思い、メンチカツなど手に取ってそのままレ

ジに並んだ。

 

 レジ前には週末特売のチラシと共に「草野

球チームメンバー募集」のポスターが貼って

ある。なんでも店長が監督で、どんな人でも

大歓迎なのだそうだ。

 

 このお店のにんにくは安くて美味しいねと

買い物客が店員に笑って話しかけている。

 


(あとがき)

さて、あとがきですが・・・

 

敗軍の将、黙して兵を語らず。

 

ってのはどうでしょうか、ダメでしょうか。いやまぁ・・・あんまり書くこともないんだけど、この三編どれも「事実」に基づいていてあー、大谷吉継のエピソードは一応「史実」と見なされて

いる・・・のかな?どうせ本当のことなど誰も解らないんですが。ともかく昔はテレビに布切れ被せてたし、「バッターを使用し」た惣菜売り場も確かに実在した!

だからこの話はどれをとっても「実話系怪談」と言えるのではないかと――

 

いや、言えない。なぜならどれも「実話系小咄」だからである。

 

怪談大賞に小咄を送りつけるとゆーのは一見すると大間違いな気がするが実際やってみると大間違いどころの話ではないと、はい、よくわかりました。

○○○○審査員が「怪談大賞なんだから怪談を投稿しろ」などと激昂してたのには少なからず申し訳ない気分にはなった・・・

 

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